規制のサンドボックス制度とは?|新技術等実証計画の認定申請・活用事例・社会実装まで解説

※本記事は2026年11月1日時点で確認できる法令、行政制度及び政府公表資料を基に作成しています。実際の制度利用にあたっては、関係法令の改正や行政運用、個別の事業内容等に応じた確認が必要です。

はじめに|新規事業を実現するために、規制そのものを見直すという選択肢

AI、IoT、ロボット、ブロックチェーン、デジタル金融、GX、資源循環など、新しい技術やビジネスモデルの社会実装が進むなか、既存の法令制度が事業化の障壁となるケースがあります。

新しい技術が登場しても、それを前提とした法令制度がすぐに整備されるとは限りません。

例えば、次のような課題が考えられます。

  • 新技術を利用したサービスが、従来の業法で想定されていない
  • 技術的には実現可能でも、現行の規制によって事業を開始できない
  • 新しいビジネスモデルについて、既存の許認可制度との関係が不明確である
  • 安全性や実用性を示すデータが不足し、規制の見直しが進まない
  • 実証実験を行いたいが、現行の規制との関係で実施方法が限定される

こうした課題に対して、国には法令の適用関係を確認する制度や、規制の特例措置、実証を通じた規制改革を進める制度が用意されています。

その一つが『規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度)』です。

この制度は、新技術や新たなビジネスモデルについて、実施期間や参加者等を限定した実証を行い、得られたデータを事業化や規制の見直しにつなげるための制度です。

本記事では、制度の仕組み、対象となる事業、認定要件、申請手続、活用事例、行政書士による支援の可能性について、関係法令や政府公表資料を踏まえて整理します。

1.新規事業の規制対応に関する4つの制度

新規事業における法令上の課題を検討する際、最初から規制のサンドボックス制度を利用することが適切とは限りません。

まずは、『法令の解釈を確認すれば足りるのか』『規制の特例措置が必要なのか』『実証による検証が必要なのか』を整理することが重要です。

代表的な制度として、次の4つがあります。

制度主な目的想定される利用場面
ノーアクションレター制度特定の法令条項の適用関係を事前に確認する具体的な行為に特定の規制が適用されるか確認したい
グレーゾーン解消制度新事業活動に関する規制の解釈・適用の有無を確認する新しい事業モデルについて、関係行政機関に法令の適用関係を確認したい
規制のサンドボックス制度限定的な実証を通じて事業化や規制改革を進める新技術等を実際に検証し、必要な制度の見直しにつなげたい
新事業特例制度事業者単位で規制の特例措置を活用する安全性等を確保しながら、規制の特例措置を利用して新事業活動を実施したい

ノーアクションレター制度は、行政機関による法令適用事前確認手続として設けられている制度です。

一方、グレーゾーン解消制度、新事業特例制度及び規制のサンドボックス制度は、現在、産業競争力強化法に基づく仕組みとして整備されています。

法令の解釈を確認すれば解決する場合

新事業が既存の規制に該当するかどうか不明確な場合には、ノーアクションレター制度やグレーゾーン解消制度による事前確認が選択肢となります。

ただし、照会の結果、規制が適用されることが明らかになったとしても、そのことによって規制自体が緩和されるわけではありません。

詳しくは、当事務所の既存記事『ノーアクションレター制度とグレーゾーン解消制度』で解説しています。

規制の特例や実証が必要となる場合

一方、現行の規制が適用されることが明らかで、そのままでは新事業の実施が困難な場合には、規制のサンドボックス制度や新事業特例制度を検討する余地があります。

規制のサンドボックス制度は、一定の条件下で実証を行い、得られたデータを規制改革や事業化につなげることを重視します。

新事業特例制度は、必要な規制の特例措置を整備し、事業者単位でその適用を受けながら新事業活動を実施するための制度です。

両制度は相互に排他的なものではなく、事業の進展に応じて段階的に活用される場合もあります。

重要なのは、制度を利用すること自体を目的とするのではなく、事業化に向けた規制上の課題を明確にすることです。

2.規制のサンドボックス制度とは?

規制のサンドボックス制度は、正式には『新技術等実証制度』といいます。

2018年6月に生産性向上特別措置法に基づいて創設され、2021年には産業競争力強化法へ移管・恒久化されました。

現在は、産業競争力強化法第8条の2以下等に基づき、新技術等実証計画の認定、認定計画に基づく実証、必要な規制の特例措置の適用、実証結果を踏まえた規制改革等の仕組みが設けられています。

実証のための条件を整え、データを取得する制度

新しい技術やビジネスモデルについて、現行の規制のままでは実証が難しい場合があります。

しかし、実証ができなければ、技術の安全性や実用性を示すデータが得られず、規制の見直しに必要な根拠を蓄積することも困難になります。

規制のサンドボックス制度は、このような課題に対応するため、実証の期間や参加者等を限定し、リスクを管理しながら新技術等を検証する制度です。

例えば、実証内容に応じて次のような条件が考えられます。

  • 実施期間を3か月、6か月などに限定する
  • 実証参加者の範囲を限定する
  • 大学構内や特定施設など、実施場所を限定する
  • 実証参加者への説明・同意取得の仕組みを設ける
  • 安全管理者の配置や緊急時の対応体制を整備する
  • 実証によって取得するデータと評価方法をあらかじめ定める

なお、これらは実証条件の例であり、すべての案件に一律に求められるものではありません。

認定を受けると、既存の法令規制はどうなるのか?

規制のサンドボックス制度について、特に注意しておきたいのが、実証計画の認定と規制の特例措置の関係です。

制度を利用すれば、あらゆる法令規制が自動的に適用除外となるわけではありません。

実証の内容によって、主に次のような方法が考えられます。

  1. 現行法令の範囲内で実施できる方法を検討し、実証を行う
  2. 関係法令の解釈や適用関係を整理し、法令に違反しない実証方法を確立する
  3. 必要な規制の特例措置を整備し、認定された実証計画に基づいてその適用を受ける

産業競争力強化法第8条の2第4項第3号では、認定基準として、実証計画の内容が同法及び関係法令に違反しないことが求められています。

したがって、認定を受けたことのみを理由に、既存の法令規制を無視して実証を行うことはできません。

一方、現行の規制のままでは実施できない場合には、産業競争力強化法第6条に基づく新たな規制の特例措置の整備を求める仕組み等があります。

政令又は主務省令に規定された規制の特例措置については、同法第12条に基づき、認定された実証計画に従って実施する新技術等実証に適用する仕組みが設けられています。

また、法律で定められた規制について特例を設ける場合には、法律上の根拠が必要となります。

つまり、規制のサンドボックス制度は、単なる法令適用関係の確認制度ではありませんが、認定によって包括的な規制免除が生じる制度でもありません。

『どの規制について、どのような法的根拠により、どの範囲で実証が可能になるのか』を個別に整理する必要があります。

また、実証計画の認定は、認定された条件に基づく実証に関するものです。

その認定をもって、実証終了後の一般的な商用展開まで当然に許可・認可されるわけではありません。

参考:e-Gov法令検索|産業競争力強化法

3.どのような事業が規制のサンドボックス制度の対象となるのか?

規制のサンドボックス制度は、特定の産業分野だけを対象とする制度ではありません。

政府は、FinTech、ヘルスケア、モビリティ、IoT等、幅広い産業分野で利用可能な制度として案内しています。

対象となり得る分野の例

分野想定される事業・技術
AI・デジタル技術AIを利用した新サービス、業務自動化、データ活用
IoT・通信ネットワーク機器を活用したサービス、遠隔管理
モビリティ新しい移動手段、移動・交通サービス
デジタル金融ブロックチェーン、電子取引、新しい金融サービス
ヘルスケア医薬品の販売方式、医療・健康関連サービス
GX・資源循環新しいリサイクル方法、省資源化、資源の有効利用
物流・小売自動販売、無人化、新しい流通・販売方法

※上記は対象となり得る分野の例であり、個々の事業が当然に認定対象となることを意味するものではありません。

『新技術等実証』の法律上の定義

産業競争力強化法第2条第3項では、『新技術等実証』について定義しています。

同項第1号では、対象となる新技術等について、我が国において産業競争力を特に強化すべき事業分野の事業活動に用いようとする革新的な技術又は手法であり、当該事業分野において著しい新規性を有し、高い付加価値を創出する可能性があるものとされています。

また、その実用化の可能性を実証するにあたり、実施期間及び参加者等の範囲を特定し、参加者等の同意を得ることなど、実証を適切に実施するために必要な措置を講じることが求められています。

さらに、同項第2号では、実用化にあたって規制について分析する場合には、規制のあり方を含めた課題の分析及びその結果の検討を行うこととされています。

したがって、単に『自社にとって新しい事業である』というだけで、制度の対象となるわけではありません。

なお、必ずしも技術そのものが世界初の発明であることを要件とする制度ではありません。

既存の技術を新たな方法で組み合わせた事業モデルなどについても、対象となる可能性があります。

ただし、法令上求められる新規性や付加価値の創出可能性等を満たすかについては、個別に判断する必要があります。

複数の企業による共同実証も可能

産業競争力強化法第8条の2第2項では、複数の者が共同で新技術等実証計画を作成し、認定を受けることも認めています。

例えば、スタートアップ企業が開発した技術について、大企業や研究機関、施設運営事業者等と共同で実証を行うことも考えられます。

新技術の開発企業だけでは実証場所や設備、専門人材等を確保できない場合、他の事業者との連携が実証体制を整えるうえで重要になることがあります。

ただし、共同実証を行う場合には、事業主体、責任分担、参加者への対応、取得データの管理、知的財産の取扱い等を整理しておく必要があります。

4.新技術等実証計画の認定要件と法定記載事項

制度の利用にあたっては、『新技術等実証計画』を作成し、主務大臣に認定申請を行います。

主な根拠は産業競争力強化法第8条の2です。

法律上の主な計画記載事項

同条第3項では、新技術等実証計画に記載すべき事項が定められています。

法定事項主な内容
実証の目標何を検証し、どのような成果を得るのか
新技術等及び事業活動の内容利用する新技術・手法と、これを用いる事業活動
実証の内容・実施方法実用化の可能性について、何をどのように実証するのか
規制に関する分析の内容・実施方法規制について分析する場合、その課題や分析方法等
実施期間・実施場所いつ、どこで実証を行うのか
参加者等の範囲・同意取得方法誰が参加し、どのように同意を取得するのか
資金の額・調達方法実証に必要な資金と調達方法
規制に関する分析の対象法令法第2条第3項第2号に規定する規制を定めた法律及び法律に基づく命令の規定
規制の特例措置法第12条に基づく特例措置の適用を受ける場合、その内容
その他必要事項実証の実施に関して必要となる事項

特に重要なのは、同条第3項第2号において、『新技術等及び事業活動の内容』『実証の内容・実施方法』『規制に関する分析の内容・実施方法』が区別されている点です。

『どのような事業を行うのか』『何を実証するのか』『どのような規制上の課題を分析するのか』は、それぞれ異なる事項です。

また、同項第6号の『規制に関する分析の対象法令』は、単に事業に関係する法令をすべて列挙する趣旨ではありません。

新技術等の実用化にあたって分析する規制を定めた法律及び法律に基づく命令の規定を明らかにするための事項です。

一方、認定要件である法令適合性を確認するためには、実証全体に関係する他の法令や地方自治体の条例等についても、別途調査が必要となる場合があります。

『法定記載事項として明示する規制関係法令』と『実証を適法に行うために確認すべき関係法令全般』は、区別して整理することが重要です。

認定申請書の様式

経済産業省が公表する制度利用の手引きでは、新技術等実証計画の認定申請について、関係命令に定める『様式第14』による申請書を使用することが案内されています。

申請書には、実証計画の目標、内容、実施方法、実施期間、関係法令等を具体的に記載します。

また、主務大臣から、認定基準への適合性を確認するために必要な資料の提出を求められることがあります。

申請にあたっては、最新の様式や記載要領を確認することが必要です。

参考:経済産業省|グレーゾーン解消制度、規制のサンドボックス制度及び新事業特例制度の利用の手引き(PDF)

認定にあたっての判断基準

産業競争力強化法第8条の2第4項では、主に次の3つの認定基準が設けられています。

  1. 政府が定める基本方針に照らして適切であること
  2. 実証が円滑かつ確実に実施されると見込まれること
  3. 実証計画の内容が産業競争力強化法及び関係法令に違反しないこと

2つ目の基準には、参加者等の同意取得が円滑かつ確実に実施される見込みであることも含まれます。

主務大臣は、認定に際して『新技術等効果評価委員会』の意見を聴くこととされています。

そのため、技術やビジネスモデルの新規性だけでなく、実証体制、参加者の保護、安全確保措置、資金計画、法令適合性等についても、具体的な説明が求められます。

5.参加者等の同意取得と認定後の法定手続

規制のサンドボックス制度では、実証に参加する者等の保護が重要な位置付けを占めています。

『参加者等』には、権利利益を害されるおそれがある者も含まれる

産業競争力強化法第2条第3項第1号では、実証に参加する者に加え、実証によって権利利益を害されるおそれがある者がある場合には、その者も『参加者等』に含まれることとされています。

したがって、実証サービスを直接利用する人だけを考えればよいとは限りません。

実証の内容によっては、周辺の施設利用者や関係者等への影響も検討する必要があります。

同意取得時には認定証の提示が必要

同法第8条の3では、認定後の手続について定めています。

主務大臣が新技術等実証計画を認定した場合、認定された事業者に認定証が交付されます。

認定事業者は、参加者等の同意を求める際に、この認定証を提示しなければなりません。

また、同条第4項では、計画に記載された参加者等の同意を取得したときは、その旨を主務大臣に報告しなければならないと定めています。

つまり、参加者等の同意は、単なる任意の配慮事項ではなく、制度上の重要な法定手続です。

安全確保措置と個人情報等の取扱い

実証内容に応じて、次のような事項も検討する必要があります。

  • 実証の目的・内容についての説明
  • 実証に伴うリスクと安全対策
  • 同意取得の対象者・取得方法
  • 個人情報や実証データの取扱い
  • 事故・不具合等が発生した場合の対応
  • 実証を中止する条件
  • 参加者等からの問い合わせ・苦情への対応

これらの具体的な措置は実証内容によって異なりますが、実証計画の実現可能性を判断するうえでも重要です。

認定計画の変更と認定取消し

産業競争力強化法第8条の4第1項では、認定された新技術等実証計画を変更しようとする場合には、主務省令で定めるところにより認定証を提出し、主務大臣の変更認定を受けなければならないと定めています。

したがって、認定後に実施内容、期間、対象者等を変更する必要が生じた場合には、認定計画の変更に当たるかを確認し、必要な手続を行わなければなりません。

また、認定事業者が計画に従って実証を行っていない場合や、認定基準を満たさなくなった場合には、認定取消し等の対象となる可能性があります。

実証計画の認定を受けることだけでなく、認定後も計画に従って実施する体制を確保しておくことが重要です。

6.規制のサンドボックス制度の申請から実証までの流れ

制度の利用にあたっては、正式な認定申請に先立ち、政府の相談窓口や関係省庁との調整を進めることが一般的です。

STEP1|事業構想と規制上の課題を整理する

まず、実施したい事業と新技術等の内容を具体化します。

そのうえで、次の事項を整理します。

  • どのようなサービス・技術を実現したいのか
  • 現在の法令制度のどの部分が障壁になっているのか
  • 既存の許認可制度のもとで実現できる可能性はないか
  • 何を実証すれば事業化の判断に必要なデータが得られるのか
  • 実証終了後に、どのような事業展開を目指すのか

この段階で、規制のサンドボックス制度ではなく、グレーゾーン解消制度等を利用した方が合理的と判断される場合もあります。

STEP2|政府の一元的相談窓口に相談する

規制のサンドボックス制度については、政府の一元的な相談窓口として、内閣官房の『新技術等社会実装推進チーム』が案内されています。

政府の窓口では、制度の選択や関係省庁との調整、実証計画の検討等について支援を受けることができます。

最初から申請書を完成させておかなければ相談できないというものではありません。

むしろ、規制上の課題が複数の省庁にまたがる場合などには、企画段階から相談することが考えられます。

STEP3|実証計画の作成・関係省庁との調整

実証の目的や実施方法、参加者等、安全確保措置、資金計画、関係法令等を具体化します。

必要な規制の特例措置がある場合には、その整備に関する手続も検討します。

事業を所管する省庁と規制を所管する省庁が異なる場合には、関係省庁間の調整が必要となります。

STEP4|新技術等実証計画の認定申請

主務省令等に定められた方法に従い、新技術等実証計画の認定申請を行います。

申請を受けた主務大臣は、計画が認定基準に適合するかを審査し、新技術等効果評価委員会の意見を聴いたうえで、認定の可否を判断します。

認定された場合には認定証が交付され、認定計画の内容が法令に従って公表されます。

STEP5|参加者等の同意取得と実証の実施

認定後、参加者等に認定証を提示して必要な同意を取得し、その旨を主務大臣に報告します。

その後、認定計画に基づいて実証を進めます。

実証では、あらかじめ設定した目標に応じてデータを取得し、技術の実用性、安全性、利用者の反応、運用上の問題等を検証します。

STEP6|実証中・終了後の報告

実証計画の認定を受けた事業者には、実証の実施状況に関する報告が求められます。

産業競争力強化法第144条第1項では、主務大臣が認定新技術等実証実施者に対して、認定計画の実施状況について報告を求めることができると定めています。

また、『産業競争力強化法に基づく新技術等実証及び新事業活動に関する規制の特例措置の整備等及び規制改革の推進に関する命令』第16条では、より具体的な報告事項が定められています。

報告の種類報告時期・内容根拠
実証中の定期報告主務大臣の求めに応じ、実施状況を定期的に報告関係命令第16条第1項
事故等の報告実証に関して事故等があった場合、その状況を遅滞なく報告同条第2項
実証終了後の報告実証終了時の実施状況について、原則として終了後3か月以内に報告同条第3項

定期報告では様式第41、実証終了後の報告では様式第42を使用することが定められています。

これらの報告では、単に実証が予定どおり進んだかどうかだけでなく、実証によって得られたデータや検証結果等を整理することが重要です。

例えば、技術の安全性を検証する実証であれば、安全性に関する計測データや事故・不具合の発生状況等が考えられます。

また、新たなサービスの実用化を検討する実証であれば、利用者の反応やサービスの実現可能性を示すデータ等が考えられます。

報告の具体的な内容については、実証計画や主務大臣からの求め等を踏まえて確認する必要があります。

参考:e-Gov法令検索|産業競争力強化法に基づく新技術等実証及び新事業活動に関する規制の特例措置の整備等及び規制改革の推進に関する命令

STEP7|規制改革・事業化の検討

実証終了後は、取得した情報やデータを踏まえ、規制の見直しや事業化に向けた検討を進めます。

産業競争力強化法第13条及び第14条には、規制の特例措置の見直しや規制改革の推進に関する規定が設けられています。

ただし、実証が成功したからといって、必ず規制が緩和されるわけではありません。

実証結果を踏まえ、規制改革の必要性や方法について別途検討されることになります。

事業者側でも、規制対応に加え、事業採算性、顧客ニーズ、資金調達、事業体制等を整理する必要があります。

7.申請から認定まで、どの程度の期間が必要なのか?

政府の制度案内では、正式な申請書を提出してから認定までの期間について、実証内容によるものの、約1~2か月程度という目安が示されています。

ただし、これは事前相談から認定までの全体期間ではありません。

2026年4月24日の衆議院内閣委員会における政府答弁では、事業者から相談を受けてから実証計画の認定まで、平均で8か月程度を要していることが説明されています。

また、制度開始以来、33計画・152者が認定され、うち3件が実証の結果として法令等の改正につながったことも示されました。

政府答弁では、制度を利用した一部の事業者から、申請書作成の煩雑さについて指摘があったことも説明されています。

したがって、『正式申請後の認定までの目安』と『事前相談を含めた実際の所要期間』は区別して考える必要があります。

なお、平均8か月という数字は、2026年4月24日時点の政府答弁に基づくものであり、すべての案件で同程度の期間を要するという意味ではありません。

新規事業の事業計画や資金計画を検討する際には、関係省庁との調整や実証計画の作成に要する期間も考慮しておくことが重要です。

参考:衆議院|第221回国会 内閣委員会第8号(2026年4月24日)

8.規制のサンドボックス制度の活用事例

規制のサンドボックス制度がどのように利用されているのか、実際の認定案件から紹介します。

事例①|電動キックボードの実証と交通制度の見直し

電動キックボードは、従来の道路交通法や道路運送車両法等の規制との関係で、新しい移動手段としての普及に課題がありました。

2019年10月には、株式会社Luup及び株式会社mobby rideによる電動キックボードのシェアリング実証が、規制のサンドボックス制度に基づいて認定されました。

大学構内等の公道に該当しない場所において実証を行い、新たな移動手段としての安全性や利用方法等について検証する取組です。

その後、2020年以降には、新事業特例制度を利用した公道での事業活動も進められました。

さらに、関係行政機関における検討等を経て、2022年4月には道路交通法の改正が成立し、2023年7月1日から『特定小型原動機付自転車』に関する制度が施行されました。

この事例で注目したいのは、サンドボックス制度による限定的な実証、新事業特例制度を利用した公道での取組、その後の法改正という段階を経ている点です。

サンドボックス制度の認定のみで道路交通法が改正されたわけではなく、複数の制度や政策的な検討が関係しています。

実証で得られた知見を、段階的に制度の見直しや社会実装へつなげていく事例として参考になります。

参考:経済産業省|規制のサンドボックス制度の活用事例

事例②|一般用医薬品の販売機による販売実証

大正製薬株式会社は、一般用医薬品の販売機を利用した販売方法について、複数回の実証計画認定を受けています。

2021年|第2類・第3類医薬品の販売実証

2021年4月23日には、『駅改札内におけるOTC販売機を用いた一般用医薬品販売の実証』について認定を受けました。

この実証では、薬局の一部として販売機を設置し、第2類・第3類医薬品の販売方法を検証しました。

薬剤師等の資格者による確認や販売可否の判断を取り入れ、医薬品の適切な管理と販売が可能かを検証する取組です。

2025年|第1類医薬品を含む販売方法へ拡大

さらに2025年2月25日には、『OTC販売機を用いた一般用医薬品販売の実証』について、新たな実証計画が認定されました。

2025年の実証では、従来の販売機に映像・音声による双方向コミュニケーション機能を追加し、第1類医薬品を含む一般用医薬品の販売方法を検証しています。

また、将来的に資格者が常駐しない受渡店舗での運用を想定し、必要となる設備や管理方法等の検討も行う内容となっています。

ただし、2025年の認定実証自体は、既に許可を取得した薬局の一部として販売機を設置し、資格者の管理のもとで行うものです。

『薬剤師がいない場所で、一般用医薬品を自由に販売できるようになった』という意味ではありません。

この事例は、最初の実証で明らかになった課題を踏まえて、設備や販売方法を改善し、さらに新たな実証を行うという段階的な取組として参考になります。

参考:

事例③|ラベルレスペットボトルの自動販売機による提供

日本コカ・コーラ株式会社は、2023年7月19日に『自動販売機によるラベルレスペットボトルの販売に関する実証』について認定を受けました。

従来、飲料用ペットボトルには、食品表示法、計量法、資源有効利用促進法等に基づく表示事項が定められており、商品情報等を記載したラベルが付されていました。

一方、ラベルを使用しないペットボトルは、資源の有効利用や廃棄物削減の観点から普及が期待されていました。

2023年|自動販売機による情報提供方法の実証

実証では、特定の少人数しか利用できない自動販売機において、ラベルレスのナチュラルミネラルウォーターを無償提供しました。

必要な製品情報を自動販売機自体に掲示することで、消費者が従来のラベル付き製品と同等の情報を認識できるかなどを検証する内容です。

ここでの重要な論点は、『ラベルをなくすこと』自体ではありません。

従来のラベルに代わる方法で必要な製品情報を提供し、消費者の安全性や商品選択に必要な情報を確保できるかという点です。

2026年|関連省令の改正と自動販売機での商品展開

2026年7月30日には、資源有効利用促進法に基づく『ポリエチレンテレフタレート製の容器であって、飲料又は特定調味料が充塡されたものの表示の標準となるべき事項を定める省令』の一部改正が公布・施行されました。

この改正では、他の法令に基づく表示を容器側面に付さない場合に、一定の条件のもとでPET識別マークのラベル等による表示を省略できる取扱いが整備されました。

これにより、従来は主にケース販売で利用されていたラベルレスペットボトルについて、自動販売機等での単品販売の可能性が広がりました。

ただし、資源有効利用促進法に基づく識別表示の規制が緩和されたことによって、食品表示法や計量法等に基づく表示義務がすべてなくなったわけではありません。

必要な商品情報については、関係法令やガイドライン等に従った表示・情報提供を行う必要があります。

2026年8月3日、コカ・コーラシステムは、2026年10月から全国の自動販売機で『い・ろ・は・す 天然水 ラベルレス』を順次販売する方針を公表しました。

この事例は、限定された環境で新たな情報提供方法を実証し、関連制度の見直しを経て、商品展開につなげていく取組として参考になります。

もっとも、2023年の実証結果だけを理由として2026年の省令改正や商品化が決定されたと断定することはできません。

規制のサンドボックス制度による実証、その後の関係省庁の検討、業界の対応、制度改正、商用化という複数の過程を区別して理解することが重要です。

参考:

活用事例から見えてくる制度の役割

これらの実証は、対象分野も関係法令も大きく異なります。

しかし、共通しているのは、従来の制度を前提としたままでは実現が難しい新しい取組について、実証条件を整理し、必要なデータを取得しているという点です。

一方で、実証後の展開は案件ごとに異なります。

規制改革につながる場合もあれば、追加実証や事業モデルの見直しが必要となる場合もあります。

規制のサンドボックス制度を評価する際には、認定件数だけでなく、その後の制度改正や事業化の状況も確認することが重要でしょう。

9.2026年の関連法改正|研究開発支援制度と規制のサンドボックス制度の連携

規制のサンドボックス制度は、2018年の創設以降、継続して運用されています。

政府公表資料によると、2026年6月末時点で33件の新技術等実証計画が認定されています。

また、制度の今後の利用に関係する動きとして、2026年6月19日に公布された『産業技術力強化法の一部を改正する法律』(令和8年法律第41号)があります。

この改正では、AI・先端ロボット、量子、半導体・通信等の戦略的に重要な技術について、重点産業技術の指定や、研究開発計画の認定制度等を整備することとしています。

加えて、認定された研究開発計画を持つ事業者が規制のサンドボックス制度を利用する場合に、研究開発計画の認定過程で得られた情報を関係大臣へ提供する仕組みも設けられます。

これにより、新しい技術に関する情報を関係行政機関が共有し、実証計画の審査や規制に関する検討を円滑に進める効果が期待されます。

ただし、2026年11月1日時点では、同改正法は未施行です。

施行期日は、公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日とされています。

したがって、今回の改正法による新たな研究開発支援制度や連携措置について、現時点ですべての制度が利用可能になっているわけではありません。

なお、今回の改正は、既存の規制のサンドボックス制度そのものを全面的に改正するものではなく、新たな研究開発支援制度との連携を図る側面を持つものです。

研究開発段階から規制対応や社会実装までを一体的に進めるための制度連携として、今後の施行・運用状況に注目したいところです。

参考:

10.制度利用にあたって注意しておきたいこと

規制のサンドボックス制度は補助金制度ではない

規制のサンドボックス制度は、新技術等実証計画の認定を通じて実証を行い、規制改革や事業化につなげるための制度です。

認定を受けたことによって、当然に実証費用の補助金が交付されるわけではありません。

産業競争力強化法第8条の2第3項第5号でも、実証計画の記載事項として、必要な資金の額及び調達方法が定められています。

必要に応じて、別の研究開発補助金、企業間連携、投資、融資等の資金調達方法を検討することが重要です。

認定計画の公表と営業秘密・知的財産

産業競争力強化法第8条の2第5項では、主務大臣が認定をしたときは、主務省令で定めるところにより、認定に係る計画の内容を公表するものとされています。

新しい技術やビジネスモデルを扱う場合、実証計画には事業ノウハウや未公表の技術情報等が含まれる可能性があります。

そのため、どのような情報が公表されるのか、営業秘密や知的財産をどのように保護するのかについて、事前相談の段階から整理しておくことが重要です。

また、複数の事業者が共同で実証する場合には、取得したデータや研究開発成果の帰属、秘密保持、成果の利用方法等を契約上明確にしておくことが望ましいでしょう。

地方自治体の条例や個別許認可にも注意

規制のサンドボックス制度は、国の産業競争力強化法に基づく制度です。

新技術等実証計画の認定を受けたことによって、地方自治体の条例や個別の許認可手続が一律に不要になるわけではありません。

実証内容によっては、例えば次のような制度が関係する場合があります。

  • 道路使用許可・道路占用許可
  • 建築基準法に関する手続
  • 屋外広告物条例・景観条例
  • 消防・防火関係の規制
  • 医薬品・医療機器等に関する規制
  • 個人情報保護・通信関係の法令
  • 土地利用・施設設置に関する許認可

そのため、実証計画の認定申請とは別に、必要な許認可や条例上の手続を確認することが重要です。

実証の認定と事業化の許可は別

規制のサンドボックス制度の認定は、認定された条件下での実証に関するものです。

実証終了後に一般向けのサービスを展開する場合には、改めて関係法令や必要な許認可等を確認する必要があります。

また、実証で良好な結果が得られても、規制改正には別途の政策判断や法令改正手続が必要となることがあります。

制度利用にあたっては、実証自体を最終目的とするのではなく、その後の事業化まで見据えた計画を検討することが重要です。

11.行政書士による規制のサンドボックス制度の活用支援

規制のサンドボックス制度を利用する際には、新技術等実証計画の作成だけでなく、その前提となる法令制度の調査や事業スキームの整理が重要になります。

特に、新しいビジネスモデルでは、複数の省庁や地方自治体が所管する規制が関係することがあります。

このような場合には、実証しようとする内容を具体化し、必要な行政手続や関係行政機関を横断的に整理することが求められます。

行政書士が支援を検討できる業務

行政書士法その他の関係法令により行政書士が取り扱うことのできる範囲で、例えば次のような支援が考えられます。

支援項目主な内容
事業スキームの整理事業主体、共同事業者、実証内容、役割分担等の整理
法令制度調査関係する許認可・規制・行政手続等の調査
制度選択の支援グレーゾーン解消制度、規制のサンドボックス制度等の比較検討
認定申請書類の作成新技術等実証計画その他の官公署提出書類の作成
行政手続支援法令上認められた範囲での申請手続代理、事前相談資料の作成等
実証後の制度対応事業化に必要な許認可・行政手続の調査・整理

ただし、行政書士が取り扱える業務には法令上の範囲があります。

実証の技術的安全性評価、建築・設備等の専門設計、特許等の知的財産に関する専門業務、紛争性のある法律事務等については、必要に応じて弁護士、弁理士、建築士、技術専門家、研究機関等と役割を分担することが重要です。

制度の利用ありきではなく、事業化の可能性から考える

新規事業を検討する事業者にとって、最初から規制のサンドボックス制度の認定を目指すことが、必ずしも最も合理的な方法とは限りません。

既存の法令解釈や許認可制度を確認することによって、規制の特例措置を利用せずに事業を実現できる可能性もあります。

一方、現行の規制のもとでは実証が難しく、安全性や実現可能性を示すデータが必要な場合には、サンドボックス制度の活用が有効な選択肢となることがあります。

そのため、最初に取り組むべきことは、事業の内容を具体化し、関係法令や行政制度を整理し、事業化の障壁となっている事項を明らかにすることです。

制度の選択は、その後に行う方が合理的でしょう。

12.まとめ|新技術の実証を社会実装につなげるために

規制のサンドボックス制度は、新しい技術やビジネスモデルを限定された条件下で実証し、得られたデータを事業化や規制の見直しにつなげる制度です。

法令の解釈や適用関係を確認するノーアクションレター制度・グレーゾーン解消制度とは異なり、実際の実証を通じて新しい技術や事業モデルの可能性を検証する点に特徴があります。

もっとも、実証計画の認定が、そのまま事業化の許可につながるわけではなく、実証によって必ず規制が緩和されるものでもありません。

重要なのは、実証の目的を明確にし、得られた結果をどのように次の事業展開へつなげるのかという視点です。

新しい技術やビジネスモデルについて、既存の法令制度が想定していないからといって、直ちに実現を諦める必要はありません。

現行制度の解釈や運用を確認する方法、規制の特例措置を活用する方法、限定的な実証によって安全性や実現可能性を検証する方法など、複数の選択肢があります。

法令や行政制度を単なる障壁として捉えるのではなく、事業実現に向けた条件として理解し、適切に活用すること。

技術と制度の双方から実現可能性を検討することが、新たな挑戦の社会実装につながると考えます。

規制のサンドボックス制度・新規事業の法令規制対応に関するご相談

アイアンバード行政書士事務所では、新規事業に関する法令規制対応、許認可・行政手続の調査、行政制度の活用等についてご相談を承っています。

AI、DX、GX、新技術の導入、新しいビジネスモデルの創出などについて、関係する制度や行政手続を横断的に調査し、事業化に向けた課題の整理を支援しています。

規制のサンドボックス制度についても、事業内容や関係法令を踏まえ、制度活用の検討及び行政書士が取り扱うことのできる範囲での認定申請書類作成・手続支援等について、個別に対応を検討いたします。

新たな事業を検討する段階では、どの制度を活用すべきか、そもそも規制の特例措置や実証が必要なのかといった点が明確でない場合もあります。

そのような場合にも、まずは事業の構想や関係法令を整理することから始めることが重要です。

当事務所では、法令規制への対応にとどまらず、制度の活用を通じて新たな事業の実現可能性を検討することを重視しています。

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