京都市の看板等の屋外広告物許可申請、屋外広告業と景観ガイドライン
景観法令といえば、「景観法令?ああ、京都市ね!」というぐらいに景観法令と言えば京都市というのは割と浸透しているような印象を受けます。北東西の三方を山に囲われ、数多くの有名な神社仏閣を有する日本有数の観光都市であり、巷では日本一景観にうるさいという声もある京都市の景観法令について、主に屋外広告物の視点から解説していきます。
目次
多くの関連法令と独自の条例
景観の保全・再生・創出のための地域又は地区のための法令は、少なくとも下記のようなものがあります。
京都市に限ったものではなく他の地域でも当たり前に適用されている法律や、同様の趣旨の条例が存在しております。しかしながら、一部の特別法が適用されていたり、独自の条例が制定されているのが京都市の特徴となっております。
法律
- 都市計画法
(高度地区、風致地区、歴史的風土特別保存地区、特別緑地保全地区、景観地区、伝統的建造物群保存地区) - 建築基準法 (高度地区)
- 古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法
(歴史的風土保存区域、歴史的風土特別保存地区) - 都市緑地法 (特別緑地保全地区)
- 景観法
(⇒ 景観計画 ⇒ 都市計画、条例) - 近畿圏の近郊整備区域及び都市開発区域の整備及び開発に関する法律
(近郊緑地保全区域、近郊緑地特別保全地区) - 近畿圏の保全区域の整備に関する法律施行細則
- 文化財保護法 (伝統的建造物群保存地区)
条例・規則
- 京都市眺望景観創生条例(高さ制限、眺望の創生)
- 京都市眺望景観創生条例施行規則
- 京都市風致地区条例(風致地区)
- 京都市風致地区条例施行規則
- 京都市自然風景保全条例(自然風景保全地区)
- 京都市自然風景保全条例施行規則
- 京都市市街地景観整備条例(市街地景観の整備)
- 京都市景観法及び京都市市街地景観整備条例の施行に関する規則
- 京都市伝統的建造物群保存地区条例 (市街地景観の整備)
- 京都市伝統的建造物群保存地区条例施行規則
- 京都市伝統的建造物群保存地区内における建築物の制限の緩和に関する条例
- 京都市伝統的建造物群保存地区内における建築物の制限の緩和に関する条例施行規則
- 京都市屋外広告物等に関する条例 (屋外広告物規制区域等)
- 京都市屋外広告物等に関する条例施行規則
- 京都市都市緑地法施行細則
- 京都市景観整備機構の指定等に関する規則
京の景観ガイドライン 全体計画編 京都の主な景観規制
さまざまな角度で特別な地域が設定されており、非常に複雑な構成となっております。
用語の定義
- 「視点場」
神社、寺院、城、御所その他の歴史的な建造物又は公園、河川、橋梁、道路その他の公共性の高い場所で、
優れた眺望景観を享受することができる場所 - 「視対象」
優れた眺めの対象となるもので、山並み、河川、歴史的な建造物、趣のある町並み、自然と一体となった伝統文化を象徴する目印その他優れた眺望景観の要素 - 「眺望空間」
視点場から視対象を眺めるときに視界に入る空間 - 「眺望景観」
視点場から眺めることができる視対象及び眺望空間から構成される景観
京都市の景観政策の骨子
建物などは私有財産であっても、景観は公共の財産。京都の優れた景観を守り、未来の世代に継承することは、現代に生きる一人一人の使命・責務であるとの考えから50年後100年後の将来を見据えた歴史都市・京都の景観づくりを行っています。
市域の約54%にあたる44,916ヘクタールが景観計画区域に指定されています。(一部地域は複数指定)
大きく分けて、自然・歴史的景観(6区域)と市街地景観(4区域)が存在します。
5つの基本方針
- 『盆地景』を基本に自然と共生する景観形成
- 伝統文化の継承と新たな創造との調和を基調とする景観形成
- 『京都らしさ』を活かした個性ある多様な空間から構成される景観形成
- 都市の活力を生み出す景観形成
- 市民、事業者、行政等のパートナーシップによる景観形成
5つの柱
1,建物の高さ
10m、12m、15m、20m、25m、31mの6段階。
基本的に、都心部から三方の山すそ(北東西)に行くに従って次第に建物高さが低くなるような方針が取られています。
2,建物のデザイン
市街地のほぼ全域で、風致地区、景観地区、建造物修景地区等を指定。
地域特性に合わせたデザイン基準が定められています。
3,眺望景観や借景
視点場から視対象への眺望を遮らない、視点場から視人できる建築物が眺望景観を阻害しないようにする観点から、38か所の優れた眺望景観・借景の保全・創出を図っています。
眺望空間保全区域 :視点場から視対象を遮らないよう、標高を定める区域
近景デザイン保全区域 :外壁、屋根等の形態、意匠、色彩
遠景デザイン保全区域 :外壁、屋根等の色彩
京都市景観計画 別表12より
4,屋外広告物
屋上看板や点滅式照明、可動式照明を市内全域で禁止。
一方で、美しい品格のある都市景観の形成に寄与する優良屋外広告物については、特例許可や施工費などの補助など支援制度も存在します。
5,歴史的な町並み
伝統的な建造物の外観の修理・修景に対する助成を行い、歴史的な町並みの保全・再生を図っています。
また、地域の意見を集約して反映させるための場づくりとして地域景観づくり協議会を設立することができ、さらに地域景観づくり計画書を作成して市のWebサイトや窓口で周知することにより、新規事業者に対して地域の意見を反映するための動きもあります。
屋外広告物について
基本骨子
- 地域ごとの景観特性等を踏まえた規制
- 優良な屋外広告物の誘導
優良な広告物に対する補助金の交付、特例許可制度 - 違反広告物対策の強化
京都市が違反状態を認知
⇒ 適法にしていただくための行政指導
⇒ 行政処分・公表、行政代執行、刑事告発等
屋外広告物許可制度と許可件数
市内全域を屋外広告物禁止地域、屋外広告物規制区域、屋外広告物等特別規制地区のいずれかに指定しています。
京都市景観白書データ集 令和5年度より
23種類の規制区域
今日の景観ガイドライン 全体計画編 屋外広告物規制区域等指定概略図
一般地域
- 第1種地域
… 山林、樹林地、田園等で自然的景観を形成 - 第2種地域
… 歴史的建造物、閑静な住宅等 - 第3種地域
… 背景に山並み、又は京都の町の生活の中から特徴ある形態又は意匠の建築物がある - 第4種地域
… 店舗・事務所等と京都の町の生活の中から特徴ある形態又は意匠の建築物が調和 - 第5種地域
… 店舗・事務所等が多数、かつ京都の町の生活の中から特徴ある形態又は意匠の建築物がある - 第6種地域
… 店舗・事務所・工場・倉庫が多数 - 第7種地域
… 繁華街で1~6に該当しない地域
沿道地域(幹線道路及びこれに接する地域)
第〇種地域特定地区は、優れた眺望に配慮という点が追加で考慮されます。
- 沿道型第1種地域
… 山並みと調和する閑静な住宅街 - 沿道型第1種地域特定地区
- 沿道型第2種地域
… 山並みと調和する閑静な住宅街 + 店舗・事務所等が調和 - 沿道型第2種地域特定地区
- 沿道型第3種地域
… 店舗・事務所等 + 町の生活の中から生み出された特徴ある意匠の建築物が調和 - 沿道型第3種地域特定地区
- 沿道型第4種地域
… 店舗・事務所・工場・倉庫 + 京都らしい中高層の建築物群が連続 - 沿道型第4種地域特定地区
- 沿道型第5種地域
… 店舗・事務所等が多数 - 沿道型第5種地域特定第1地区
… 店舗・事務所等が特に多数
+ 京都らしい中高層の建築物群が連続
+ 特に良好な通りの景観を形成 - 沿道型第5種地域特定第2地区
… 店舗・事務所等が特に多数
+ 京都らしい中高層の建築物群が連続
+ 良好な通りの景観を形成 - 沿道型第6種地域
… その他の沿道地域
その他の地域
- 歴史遺産型第1種地域
… 世界遺産周辺区域等 + 山林・樹林地・歴史的建造物が重要な要素 - 歴史遺産型第2種地域
… 世界遺産周辺区域等 + 1種以外の地域 - 屋外広告物禁止地域
… 屋外広告物の設置が禁止されている地域 - 屋外広告物等特別規制地区
… 都市計画法の伝統的建造物保存地区等
許可が不要な例
自家用屋外広告物・管理用屋外広告物
下記のいずれかに該当する場合で、合計面積が2㎡以下の場合は許可が不要です。
管理用屋外広告物では、一つの面積が0.3㎡を超えない、かつ合計面積が2㎡以下の場合は許可が不要です。
※他の都道府県や市であれば7㎡以下とされている地域が多いですが、2㎡以下の基準はトップクラスに厳しいです。
自己の住居において、自己の氏名又は住所を表示(表札等)
自己の事務所又は事業所において、名称、商号、所在地、事業内容、取扱商品、提供するサービスを表示
建築物の名称又は用途を表示するため、建築物又は敷地内に表示
なお、法令により表示が義務付けられている屋外広告物等、上記に関わらず許可不要となる場合がございます。
高さの規制
基本的に、下記のいずれか低いほうまでになります。
眺望空間保全区域については、下記に加えて条例で規定される建築物等の最高部の標高以下の条件も加わります。
- 地域に応じて定められた高さの基準
- 建築物等の高さの2/3の高さ(2/3の高さが10m以下の場合は10m)
広告塔や他本市中型の看板等も、地域に応じて表示可能な高さの基準が存在しています。
建築物の壁面に定着する屋外広告物の場合、建物の軒の高さを超えないようにしなければなりません。
切り文字広告、ひさし看板については、一定の要件を満たした場合に緩和措置をとれる場合があります。
面積の規制
間口×規制高さの面積に応じて、15%~25%以下となるような制限が設けられています。
ただし、建築物の高さが高い場合、高度10m以下と10mより高い部分とで分けて算定します。
アーケードがある場合もアーケード上の面積の制限割合以下、アーケード下の面積の制限割合以下と分けて算定します。
建物がL字型であるなど、同方向の壁面であっても一体的に見えない場合は、各壁面ごとに表示率を算定します。
規制区域の種別に応じて、広告物一つあたりの面積と総面積のそれぞれに上限が設けられています。
のぼり旗については、まったく透けない素材の場合を除き、両面に表示がなされているとみなされて算定されます。
色や明るさの規制
定着する建築物等及び周囲の町並みの景観と不調和な屋外広告物を表示することはできません。
京都市では、地域別に彩度の制限が設けられています。
ひらたくいえば、雑に彩度の高い色を目立たせるようなけばけばしい色の組み合わせにならないよう、気を付けてくださいということになります。
規制が最も厳しい地域
明彩度の規制が最も厳しい地域である、第1種地域、歴史遺産型第1種地域、歴史遺産型第2種地域では、下記のように禁止色や規制対象色が設定されています。規制対象色は、使用する部分の面積割合(外接の長方形の面積の割合)は20%未満以内にしなければならない制限がかけられています。
京の景観ガイドライン 屋外広告物編より
他の地域
他の地域では、禁止色は設定されておりませんが、規制対象色の使用は一定割合までとされています。
京の景観ガイドライン 屋外広告物編より
第4種地域、第5種地域、沿道型第3種地域、沿道型第4種地域特定地区、沿道型第5種地域特定第1地区
⇒ 規制対象色を使用する部分の面積割合は30%未満まで
第6種地域、第7種地域、沿道型第4種地域、沿道型第5種地域、
沿道型第5種地区特定第2地区、沿道型第6種地域
⇒ 規制対象色を使用する部分の面積割合は50%未満まで
色彩基準の例外
一定の場合は、例外的な対応が取られる場合があります。
- 着色されていない木や石は、規制対象の色とはみなさない。
- 伝統的な意匠の建築物と調和した和風の意匠ののれん
- やむを得ないもので、景観上支障がないと認められるもの
- 最上部の高さが4m以下であり、屋外広告物の規制対象面積が1㎡以下の場合
(最も規制が強い地域は0.5㎡以下)
看板の形態等の規制
市内全域で使用禁止
- 屋上屋外広告物(建物の屋上に設置されるタイプの屋外広告物)
⇒ 良好なスカイラインの形成のため - 点灯式照明(パトカーの回転灯のようなイメージ)
⇒ 刺激的で強い光を放つ等、都市の景観に支障をきたすため - 可動式照明(照射する光が動くものや、ウェーブのように点灯していくようなもの)
⇒ 同上の理由
可変表示式屋外広告物(デジタルサイネージ等)
電光掲示板、デジタルサイネージ等の常時表示の内容を変えることのできる屋外広告物を可変表示式屋外広告物といいます。
1個当たりの面積制限や、付近に他の可変式表示屋外広告物がないかどうかの距離制限といった規制がなされています。また、後述の禁止地域が設定されております。
また、表示内容が自由に変わるものについては、原則その面積全てが規制対象色部分となります。
ただし、文字又は記号のみを表示するものについてはこの限りではありません。
禁止地域
第1~4種地域 … 自然的景観、住宅立地、京都の町の生活の中から特徴ある形態又は意匠
沿道型第1種地域、沿道型第1種特定地区 … 山並みと調和する閑静な住宅街
沿道型第2種地域、沿道型第2種特定地区 … 山並みと調和する閑静な住宅街
歴史遺産型第1~2種地域 … 世界文化遺産のある地域
その他の規制
建築物の窓ガラスなどの内側から屋外に向けて表示する広告物は、屋内にあるため屋外広告物には該当しませんが、特定屋内広告物といい、一定の制限がなされている場合がございます。
一部の道路沿道については、眺望景観への配慮の観点から道路上空への突き出し看板が禁止されている地域があります。道路占用許可も下りない場合がある、ということになります。
京都市公式の資料
京都市景観計画
文章中心で1章から4章まで書かれており、全144頁。加えて別表が12ほどあります。
詳細は京都市のWebページからご確認いただけます。
京都市景観ガイドライン
市街地の景観や眺望景観に関する建築物、広告物の規制について、分かりやすく解説するために作成したもので、市民や事業者の皆さんからのお問合せが多い項目を中心に、具体的な事例や写真を交えて基準や手続等を解説したものとなります。
ひらたくいえば、景観ガイドラインは市民や事業者目線にたった形で作成されております。
京都市の景観ガイドラインについては、京の景観ガイドラインとして下記の通りに分類されております。
全て合わせると355頁ほどあります。
- 全体計画編
- 建物の高さ編
- 建物デザイン編
- 眺望景観編
- 広告物編
こちらも下記リンクからご確認いただけます。
また、京都市をさまざまな視点でみた地図という点では、下記のサイトも非常に便利です。
利用にあたっては、利用規約を必ず読んだ上でご利用ください。
京都市都市計画情報等検索ポータルサイト (kyoto.lg.jp)
京都市景観白書
平成20年に設置された京都市景観政策検証システム研究会が5年毎に「京都市景観白書」を作成しております。
また、平成23年度~令和4年度においては、前年度末時点での取り組み等を掲載した「京都市景観白書データ集」も発行していました。
京都市:「京都市景観白書」及びデータ集 (kyoto.lg.jp)
まとめ
京都市内で屋外広告物の設置を考える際は、京都がもつ伝統に敬意を払い、調和を意識した意匠をもつものを踏まえて検討しましょう。繁華街地域等では必ずしも和風ではない建築物も存在し、新しい風は吹いている面もあるかと思います。文化の街という性質を踏まえて、温故知新の精神を大切にすれば、そこに新たな伝統を築くことができるかもしれません。
参考リンク
京都市都市計画情報等検索ポータルサイト (kyoto.lg.jp)
京都市:「京都市景観白書」及びデータ集 (kyoto.lg.jp)
京都市:許可基準概要図等(規制区域・地区別) (kyoto.lg.jp)