相続土地国庫帰属制度

今回は、相続土地国庫帰属制度の紹介記事です。
相続に関する話題ではありますが、地域創生やまちづくりにもつながりうる部分もあり、今まさに活躍の機会が増加している制度となっております。

相続土地国庫帰属制度とは

制度の概要

相続土地国庫帰属制度は、令和5年4月27日の導入にされた、相続により取得した土地を国に帰属させることができる制度です。この制度は、相続人が土地を管理・維持する負担を軽減し、所有者不明の土地を今後増やさないようにするために設けられました。土地の所有権を国に移転することで、相続人は土地の管理や税金の支払いから解放されます。

背景には、所有者不明土地の増加が社会問題となっている点も大きいです。
土地を相続した場合は一旦相続人で共有状態となりますが、その後分割協議がなされることなく、結局誰が所有しているのか不明な土地が日本には割と多く存在します。誰のものかわからないままに適切な管理がなされず放置されていたり、所有者の探索にも非常に時間と費用が発生しています。その結果、公共事業や復興事業がなかなか進まなかったり、土地の利活用を大きく阻害しているのが現状です。

こうした現状を踏まえ、土地基本法の改正で『土地の管理』という側面が重要視されるようになりました。相続登記の義務化や今回の相続土地国庫帰属制度等が導入され、所有者不明土地をこれ以上増やさないという動きが活発化していくこととなりました。

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制度の利用状況

令和6年6月30日時点で、
申請件数       2,348件
帰属件数         564件
帰属できなかった件数    27件
取り下げ件数       293件

となっております。
地目別にみると、農地(田・畑)と宅地が多く、それぞれ約4割弱ずつを占めております。

申請が通った割合があまり多くないように感じるかもしれませんが、実際のところ審査に非常に時間がかかっているため、まだまだ審査待ちが多いということになります。帰属できなかった件数の少なさを鑑みるとその点がお判りいただけるかと思います。

また、取り下げ件数は293件ですが、審査の途中で却下、不承認の事由が判明した例以外にも、自治体、近隣の方等、是非欲しいという申し出により結果として制度を利用するまでもなくなった、ということもあるようです。

詳細については、法務省のページにて記載されております。
法務省:相続土地国庫帰属制度の統計 (moj.go.jp)

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誰が申請できるのか?

相続や相続人への遺贈(遺言の実行によって取得した)により取得した土地であれば、いつ取得したかを問わず申し込むことが可能です。
何年も前に相続で取得した場合であっても申し込みが可能です。
制度名にある通り、『相続』という点が重要です。

なお、土地が共有の場合は、共有者全員の同意が必要となります。
共有者の一人が相続や遺贈によってその土地の一部を取得した場合であれば、他の方については相続以外の売買等で取得したとしても申請が可能です。

手続き代理が認められるのは、法定代理人に限られます。

書類作成代行を専門家に依頼することができます。その場合も申請者は土地の所有者です。
書類作成代行が認められるのは、弁護士、司法書士、行政書士となります。
土地の境界の相談役として、土地家屋調査士にも協力を依頼のもよいでしょう。ただし、書類作成代行はできません。

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制度利用までの流れ

法務局への相談

法務局の本局に具体的な相談を行います。本局は北海道のみ3か所、他は都道府県に1か所ずつ存在します。
土地が遠方にあったとしても、最寄りの本局での相談が可能です。なお、事前予約必須となっております。

法務局への相談前に、事前に専門家に相談を行っておいた方がよいでしょう。

申請書の作成

申請書を作成します。
専門家に依頼する際は、書類作成前に実地調査を行い現地写真の撮影を行うこととなります。

申請書類以外にも、土地の状況等がわかる資料や写真を可能な限り準備します。

  • 登記事項証明書又は登記簿謄本
  • 地図又は公図
  • 地積測量図
  • 土地の測量図面
  • 現況、全体がわかる画像や写真
  • 市町村から送付される固定資産税納税通知書
  • 上申書

など・・・。

なお、後述する却下事由や不承認事由が存在する土地について、事実を偽ったり不正な手段によって承認を受けたことが後に判明した場合は、その承認が取り消されることとなります。また損害賠償責任を負う可能性があります。(負担金も還付されません)

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申請書の提出

申請書に14,000円分の収入印紙を張り付けて、申し込みをする対象の土地を管轄する法務局の本局に提出します。
郵送での手続きも可能です。

申請直後に、申請した土地一筆につき番号が付与されますので、忘れずに確認しておきます。

審査

審査には非常に長期間かかります。
通常審査に係る標準処理期間は8カ月とされておりますが、1年近くかかる場合もあるようです。

承認申請があった土地については、国や地方自治体、近隣の所有者等に土地の利活用の希望の有無を確認する作業も入ります。この段階で利活用の希望があった場合は、制度を利用するまでもなく取り下げとなります。

審査の途中で、現地調査の同行を求められる場合がございます。

申請者が審査期間中に死亡してしまった場合

また、審査期間中に申請者が死亡してしまった場合は、60日以内にその旨を申し出ることで、申請手続きを継続させることができます。申し出の際は、申出書の他、相続等があったことを証明する書面の添付が必要となります。
申し出がなかった場合は、申請は却下されてしまいます。

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承認・負担金の納付

承認の通知とともに、負担金の期限内の納付が求められます。
負担金の通知が到達した日の翌日から30日以内に納付が必要です。万が一期間内に納付がされなかった場合は、申請の最初からやり直しとなります。
負担金は基本的に面積に関わらず一筆200,000円となります。

ただし、以下の場合は面積区分に応じた算定となります。

  • 都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域内の土地
  • 農業振興地域の整備に関する法律の、農用地区域内の農地
  • 土地改良事業等の施行区域内の農地
  • 申請土地が『森林』の場合

合算負担金(負担金を安くできる制度)

隣接する二筆以上の土地のいずれもが同一の土地区分である場合、申し出をすることで、
それらを一筆の土地とみなして負担金を算定することができます。

合算申出書を、法務局の本局に提出して行います。
土地相続国庫帰属制度の申込書を提出したときから、法務局長により承認がなされるまでの間となります。

極端な話、条件さえ満たせば10筆あったとしても1筆扱いになり、まとめて申請すれば負担金が大幅に安くなります。

複数の承認申請者がいる共同申請の場合は、負担金の納入告知書を受領する申出人を誰かひとり指定して記載しなければなりません。共同申請間で、誰が代表して負担金を払うか、申し合わせておく必要があります。

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国庫帰属

承認申請者が負担金を納付した時点で、土地の所有権が国に移転します。

なお、その際の所有権移転登記は国が行います。住所変更登記や相続登記がなされていない場合でも、国が代わりにやってくれることとなります。負担金が高額なのは登記等の費用も含まれると考えることができます。

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審査時にマイナスとなる要素

却下要件

却下要因があると、審査しても却下されるので制度利用は断念するか、却下要因の解決を図るべきでしょう。
土地の帰属が却下される要件には以下のものがあります。
ひらたくいえば、土地の売買が非常に不利になる場合という具合です。

  • 土地に建物がある場合
  • 土地が他人に使用されている場合(通路用、墓地内、境内、用悪水路、ため池、水道用地等)
  • 抵当権や地役権等、権利設定が土地になされている場合
  • 土地が土壌汚染されている場合
  • 境界が明らかでない等で、土地の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

不承認要件

土地の帰属が不承認となりうる要件には以下のものがあります。
ひらたくいえば、土地の管理に費用や労力がかかってしまう場合という具合です。

  • 有体物が土地の地上又は地下にある場合
  • 一定の高さの崖があったり、一定程度の勾配がある場合
    ※ ここでいう崖とは、勾配が30度以上あり、かつ、高さが5m以上のもの
    ⇒ 土砂崩れ対策が施されていれば可能性はまだないこともない。
  • 土地に未解決の権利関係が存在する場合
  • 囲繞地(民法210条第1項に規定されている、他の土地に囲まれて公道に通じない土地)
  • 池沼、河川、水路、海を通らなければ公道に出ることができない土地
  • 竹林(根が張りめぐり管理が困難なため)
  • スズメバチ、クマ等の危険性の高い生物が生息し、
    周辺を含めて身体生命に被害が生じ、又は生ずる恐れがある場合
  • 地目が保安林(管理・労力が必要なため)
  • 現況地目と登記地目が異なる場合(登記上は農地だが、耕作放棄され実際は山林となってしまっている)
  • 土地が市道など道路の一部の場合
  • その他、管理・処分に過分な費用や労力がかかる場合

土地の利用に邪魔になるか否か次第で、場合によっては承認とされる場合もあるようです。

最後に

この制度は、特に地方や過疎地域での利用が増加しています。相続人が遠方に住んでいる場合や、土地の利用価値が低い場合に、土地の管理が困難になることが多いためです。制度の導入以降、この制度を利用して土地を国に帰属させている方は増加しております。

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